春の鎌倉。お花見の時期でもあり、有名な寺の周辺は路地裏まで人が
溢れている。

「ボート遭難慰霊碑」や細菌学者コッホの記念碑のある稲村ガ崎公園に
さしかかって驚いた。中年以降の年代の男性たちが大結集。皆さん同じ方向を
向いて立ちつくしている。


私も彼らに混じって断崖の柵の前に立った。
眼前に広がる相模湾・江ノ島・富士、その大きな風景の中に落ちていく太陽…
そうだ、ここは夕景撮影の人気スポットだっけ。


皆さん望遠レンズを取り付けたカメラを三脚に据え、万全の態勢で待ち構えている。
やがて太陽が富士にかかると、絶妙のタイミングなのだろう、あちこちで
シャッターを切る音が聞こえた。はじめのうちは傍観者的に、大勢の人々が
一斉に集中する姿に感心していた私もつられてixyでパチリ。


「もっと凄い時は、海が夕日で真っ赤に染まるんだよー」。隣にいた
60代前半くらいの方が教えてくれた。それでも、この時期にしては富士が
よく望める日だったようだ。



かつて北斎や広重もこの場所で描いた。整い過ぎるほどの風景のお膳立て。
個人的にはそれほど富士に魅かれないけれど、日本で育った人の心の奥底に
しっかりと刻み込まれている風景のひとつではある。
居合わせた人々は見知らぬ人同士なのに和気あいあい、不思議な連帯感に
包まれているかにみえた。