御殿場から、芦ノ湖スカイラインに抜ける間道。
初めて通る道だと思うが、御殿場を眼下に見ながら、
芦ノ湖方面に登っていく。
通行量もすくなく、途中には何もないが、しばらく登ったところに、
おしるこ屋がぽつんと建っている。
暖簾もでているから、やっているみたい。


そこには、50代の女の人がいて、おしるこを頼むとお茶を入れて迎えてくれた。
しきりに富士が見えないのを気にしながら、しばらくしておしるこを持ってきた。
 


ここで、「どのくらいお店をやっているのですか?」と聞くと、
「もう建ってから35年ぐらいになります」と、いえ、
「あなたはここに来てどのくらいですか?」
「私は、もう20年ぐらいになります」

20年と言えば、まだ30代の頃からこのお店に来ていたいたことになる。
毎日11時ごろ来て、4時過ぎには閉めるそうだ。
「休みはいつですか?」と聞くと、
「雨が降ったときなど休みます」と

会話をしていて、どうしても聞きたい質問があった。
「一人もお客さんが来ない日はありますか?」
すると、
「そりゃーありますよ」
と投げやりだが、仕方がないという風に話してくれた。

この女の人は、20年間も毎日富士を見ながら、
いつ来るかわからない客を待っている。
毎日、毎日、富士と付き合いながら、
一見平凡そうな人生をここで、20年間過ごしてきたのだ。
一人でポツンと飛び込んだ私は今日最初で最後の客かもしれない。


この人は30代の女ざかりのころから、この通行もあまりない
脇道のおしるこ屋で、いつくるともわからない客を待っていたのだ。
もしかしたら、この女の人が待っていたのは、私かもしれない。
などと勝手に決め付けて、ごちそうさま、と20年目の客の別れをした。