倉敷、とくに倉敷川を中心とした「美観地区」は、町おこしのその先・・・
町家(まちや)や蔵などの歴史的建築群や独自の文化を核に据えた地域振興の
成功例として知られる。文化庁選定の伝統的建造物群保存地区でもあり、
地域振興や観光客の誘致を目指す国の市町村にとっては、お手本のような
存在だ。

なだらかな低山を背景に、柳並木が影を落とす倉敷川沿いに白壁・なまこ壁の
町家(実際に人が住む)をはじめとした歴史的建築や大原美術館・アイビー
スクエア・倉敷民藝館、倉敷考古館が美しい町並みをつくる。
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江戸幕府の直轄地「天領」として栄えた倉敷だけに、財・知の粋を集めた「美観
地区」の醸す雰囲気は、他の追従を許さない観も。


1930年に開館したわが国の西洋美術館の先駆け、大原美術館。エル・グレコ
「受胎告知」やモネ「睡蓮」の所蔵品はあまりに有名だが、初見参のフォートリエ
「人質」が強く印象に残った。
本館・工芸館・東洋館からなるが、東京・駒場の民芸館をよく訪れる身に、
宝箱のような工芸館は立ち去りがたく、順路も無視してウロウロ。


美術館の敷地内。茅葺屋根の小さな建物は守衛さんの詰め所。
なまこ壁の後ろにビルが見えるが、違和感はあまりない。高さも色彩も厳しい制限があるのだろう。
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ホテル・結婚式場を擁する複合型観光施設・アイビースクエア。倉敷紡績の
工場を、1974年、この町出身の建築家・浦辺鎮太郎によるリノベーションで
オープンしたもの。
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中庭の池には、フランス・ジベルニーのモネの庭から大原美術館に贈られた
睡蓮を株分けしたものが咲いていた。写真ではわかりにくけれど、鮮やかな
ピンクの睡蓮もあった。
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平日だったので、この町の素顔のようなものも見ることができた。倉敷川のほとりでは、保育園児たちがお散歩中。

 
美しい町並みを見て育つ子どもたち。進学などで上京したら、さぞ…?
倉敷市にも国道沿いなどに量販店やファミレスが林立する”アグリーサバーブ”があり、そこで免疫ができるのだろう。

町家で営業している証券会社。大きな黒板に、端正な文字で市況が。


一方で、町家再生を主旨に活動する団体のポスターが目についた。
「居住人口も減少し高齢化が進み、コミュニティ形成や暮らし、風景に影響が
出てきている」と懸念を述べている。


晩御飯は知人に紹介された店、町家の続く界隈にある居酒屋「新粋」へ。
地元のアマチュアオーケストラの一員らしい隣席の女性たちが、音楽会の
ポスターの掲示を店主に頼んでいたり、お客さんは各々節度を保って
飲んでいて、なごやかだけれど騒がしさもない。
おでんが自慢の店なのに、瀬戸内海の小さな魚介が珍しくて、そればかり
注文してしまった。


ひとは育った環境に影響されることが多い。ここでは文化活動も盛んなのだろう。
その舞台としても"絵になる"町。
今度はいつ、来れるかな…。