画家や彫刻家、デザイナーを目指し、東京美術学校(現・東京芸大)などに
通い、あるいは卒業しながらも、第2次大戦に召集され、非業の死を遂げた
(戦争が遠因で亡くなった人も)画学生たちの遺作を展示する「無言館」
(戦没画学生慰霊美術館)に立ち寄った。

少しわかりにくい場所にあるが、4月から11月までは
上田駅?別所温泉間のシャトルバスもとまる。

1997年開館。塩田平を見下ろす小高い山にある。
鎮魂を込めたのだろうか、教会のようなたたずまいだ。
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木の扉を押して中に入った。
照明を極力落とした空間に、作品が一点、一点、スポットに照らされて
浮かび上がる。
ガラスのケースには遺影・遺品、周辺の人びとの言葉や手紙なども
置かれて、故人の人となりもわかるように配慮されている。
戦争によって、生を絶たれた若者たち。戦死通知も展示されていた。


鑑賞するうちに、建物が十字架の形だと気づいた。
十字が交差する中心の床が丸く小高くなっており、
吹き抜けのドームの窓から陽光が降り注いでいる。

ざわめきとともに高校生男女の集団が入館してきた。
うわ…と思ったのは杞憂で、皆、静かに見入っていた。

入館料は館を出るときに支払う。1人1,000円で、
第2展示館も見ることができる。

第2展示館は、無言館の開館後あらたに集まった
作品の展示のため、昨年開館。
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建物の外には、大戦末期に地上戦が行なわれた
沖縄・「摩文仁(まぶに)の丘」から運ばれた小石や
中庭にパレスチナから運ばれたオリーブの木が
植えられている。
石は信州では見かけない、明るい象牙色。珊瑚を
含むのだろうか、小さな孔がたくさん開いている。
オリーブは寒さの厳しいこの町で無事育つのだろうか、
ちょっと心配だ。
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館に隣接して図書室があり、床から吹き抜けまで
造りつけた大きな書棚に美術書などが美しく収められていた。
蔵書は地元への貸し出しも行っているそうだ。
奥にはカフェも。
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「こんな図書館なら、1日いてもいいなあ」。
ふいに、屈託のない男子高校生の声。
年齢の近い画学生に思わず自分を重ね合わせたかもしれない
痛ましい空間から突然穏やかな場所に出た解放感のなせるわざだろう。

館が閉まった真夜中、この図書室に永遠の画学生たちが集まっている。
木の椅子に腰かけて静かに蔵書のページを繰るもの、
画論を戦わせるグループもある…。
そんな妄想を抱いてしまうほど、図書室は安らぎに満ちた空間に思えた。