九十九里の海を眺めるように、高村光太郎の詩碑が建っている。
昭和9年から8ヶ月ほど、病の智恵子はこの地で別荘暮らし。
光太郎は毎週末、東京から訪れた。

草野心平が建立した詩碑には、光太郎の詩が刻まれている。

智恵子抄:千鳥と遊ぶ智恵子

人っ子ひとり居ない九十九里の砂浜の

砂にすわって智恵子は遊ぶ。
無数の友達が智恵子の名を呼ぶ。
ちい、ちい、ちい、ちい、ちい、・・・・・
砂に小さな趾あとをつけて
千鳥が智恵子に寄って来る。
口の中でいつでも何か言っている智恵子が
両手をあげてよびかへす。
ちい、ちい、ちい、・・・
両手の貝を千鳥がねだる。
智恵子はそれをぱらぱら投げる。
群立つ千鳥が智恵子をよぶ。

ちい、ちい、ちい、ちい、ちい、・・・
人間商売さらりとやめて、
もう天然の向うへ行ってしまった智恵子の
うしろ姿がぽつんと見える。
二丁も離れた防風林の夕日の中で
松の花粉をあびながら私はいつまでも立ち尽す。