連休前日、信州行きの直前に母から入った、伯父の死を告げる電話。
出発をとりやめ、その後の連絡を待った。

結局、連休中は通夜を行わないことになり、思い立って、伯父が好きだった
目黒区駒場の日本民藝館へ。澄んだ秋空のもと、住宅街は金木犀の香りに
包まれていた。
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伯父は享年88歳。心臓の持病はあったけれど、自宅で倒れる前日には訪問
した姪と談笑したり、書斎に籠って蔵書の整理をしたり、庭の花をカメラで接写
するなどして元気だったという。
企業人だったが文学の博士号をもち、信州の山や奈良あるきを愛する夢想家
でもあった。

偶然発見した伯父の旧友のブログから知りえた、伯父たちが終戦から間もない
蓼科の山々を歩きつくし、ニッコウキスゲの大群落に迷い込んだり、山頂から
茅野駅までスキーで滑り降りた、などのエピソードには、道路も別荘地も整備
されてすっかり人臭くなった現在の蓼科しか知らない私はただ驚くばかりだ。

小学生時代、伯父からクリスマスに贈られたスイスの画家アロワ・カリジェの
2冊の絵本は、私に信州と出合うきっかけを作ってくれた思い出深いもの。null null
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館では、創設者・柳宗悦の特別展を公開中だった。
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内部はもちろん、撮影ご法度。窓の格子越しに向かいの柳の旧宅をこっそり。
門の脇にもびっしりと花をつけた金木犀が。
背後の大きな建築物は、以前はなかった東大生産技術研究所。壁面緑化は
藤森教授の提案?
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かつてこのあたりに7年ほど住み、館にも散歩ついでによく立ち寄ったが、民芸に
たいしてとくに思い入れはなかった。
けれど、昨年、館とも縁の深い大原美術館をみて以来、先人たちが生活の中で
うみだしてきた用と美の道具たちに、以前にも増して親しみが湧くようになった。
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脳みその中身はともかくとして、趣味や嗜好に関するDNAは、私も伯父と共通
するものを受け継いでいるのだ。

強い芳香を放つ金木犀。毎年、この花の季節には、伯父のこと、そして伯父から
もたらされたさまざまな世界を思い出すことにしよう。
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