真夏の高原へ行ったら、野菜の直売所めぐりは楽しみのひとつだ。
ずっしりと重たく、つややかできめこまかな皮をしたトマト、ガクの棘が痛いほど
チクチクする茄子、シャキシャキと音がしそうなレタスなど、首都圏では
まず手に入らない新鮮な野菜や果物が、ひと山数百円で販売されている。


北信州・飯綱町に通うようになって、高原野菜はもちろん、さくらんぼや
杏の初夏に始まり、無花果、ブルーベリー、西瓜、桃、玉蜀黍、李、ネクタリン、
プルーン、和梨、ル・レクチエ、ラ・フランスなどの洋梨、巨峰をはじめとした
さまざまな葡萄、初秋から晩秋までは20種もの林檎が次々に登場する
“フルーツ天国”であると知った。

8月半ば、日本最古の和林檎といわれる「高坂(こうさか)林檎」を同町・
横手にある野菜直売所で見つけたのでご紹介しよう。
 


ラベルにはお盆の供え物に、とある。姫林檎と同じくらいの大きさだ。お盆に間に合わせるため、青いうちに収穫するが、時期が来ると赤く色づくという。
「高坂林檎」は平安時代に中国から渡来し根付いたもので、江戸時代にはお盆に善光寺への供物にもなったが、その後、西洋種の栽培に押され、現在では信州のいくつかの地域と、ここ飯綱町の高坂地区にわずか数本を残すのみ。貴重な収穫も、復活させたお百姓さんの努力あってこそと聞いた。

ひと皿を買い、食してみると、甘くも酸っぱくもない、さっぱりとした味。でも、姿かたちはこぢんまりと愛らしく、気の利いたインテリア雑貨のよう。数日後、会社へのお土産に、と直売所に寄ったが、すでに売り切れていた。
“一年一会”、お盆というほんの短い間に現れる稀少な林檎。来年も会えるかしらん?