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網代のトンネルを抜けると眼前に海が開け、そのまま道は右にカーブします。そこで、不思議なホテルと擦れ違うのです。名前はムクデン満鉄ホテル。カーブの窪みのところに駐車場があり、その奥、高い岩山に沿うように建っているミニホテルです。いつも通るたびに異空間のような気がして、どんな人がオーナーで、誰が訪れるのだろう?と気になるのです。清潔なエントランスはやさしくお客を迎え入れようと準備していますが、今まで人をみたことはありません。客になった気分であれこれ想像してみるのですが・・・「きっと身なりのきちんとした初老のオーナーが優しく微笑みながら、よくおいで下さいましたと迎えてくれるはずです。奥からは、少し腰が曲がってはいるが上品な奥様が紅茶を入れて、テーブルに呼んでくれます。そして、客室は以外に奥にあり、これは岩をくり貫かなければとても無理だと思い唖然とします。しばらくすると食事に呼ばれます。別のテーブルには、長い髪の品のある若い女性が食事をしています。食後、もてあました時間もう一度、お酒でも飲もうと思い、マスターに先ほどの女性はと聞くと、にっこりと微笑みながら、先ほどお帰りになりましたと答えるばかりです。夜も11時をまわって、駐車場には私の車以外置いていなかったのですが・・・。入り口のほうを見ると、ドアの向こうはうっすらと明るく夜とは思えない雰囲気で、なんとなく外に出るのを拒むような雰囲気です。静かな不思議な気持ちにつつまれながら、私はそのまま、部屋に戻り眠ることにしました。」 いつか、このまま元に戻れなくなっても良いと思ったとき、ここに泊まりに来よう。
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